お知らせ

山で位置情報を共有するために最適な通信規格は?「LTE-M」と「ELTRES」を山で使い比べてみました

作成 最終更新

こんにちは。 昨今、さまざまなGPS端末が登場していますね。 大きさや電池の持ち具合など、気になる方も多くいらっしゃるかと思いますが、通信規格にも、実は違いがあるということをご存知でしょうか?

最近登場している多くのGPS端末は、LPWA(Low Power Wide Area)と呼ばれる無線通信技術を使用しています。GPS端末が人工衛星から受け取った位置・時間の情報をサーバーに届けるには、何らかの通信技術が必要です。

近年、こうした通信によく使われているのが、「より少ない電力で(Low Power)」「より広く(Wide Area)」通信が可能なLPWAという無線通信技術です。LPWAには様々な規格が生まれています。IBUKIでは、常に「山で位置情報を共有するために最適な通信規格」とはなにかを考え、最適な技術を探求しています。

今回はその一環で、LPWAの一種である「ELTRES」と、現在のIBUKI GPS端末で使っている「LTE-M」通信で、どれくらいつながるエリアが違うのかを、近藤が実際に山を走って実験してみましたので、その様子をご紹介します。 また、そもそもLPWA無線通信とはどういったものなのかや、他の通信規格にどのような特徴があるのかについてまとめてみました。

音声で聞きたい方はこちらから

そもそも、LPWA(Low Power Wide Area)無線通信とは

LPWAとは、Low Power Wide Areaの略で、LPWAN(Low Power Wide Area Network)とも呼ばれ、低消費電力かつ広域・長距離通信を特徴とする無線通信技術です。通信データ量は少なくWi-Fiなどに比べ低速ながら、10kmを超える無線通信が可能です。2017年頃から、複数の規格が実用化され、近年IoT分野などで広く使われるようになっています。

LPWAの種類

LPWAは、無線局免許を必要とする周波数帯(ライセンスバンド)を利用しているセルラーLPWAと、無線局免許を必要としない周波数帯(アンライセンスバンド)を利用しているノンセルラーLPWAの2つに分かれます。ノンセルラーLPWAは、日本国内では無線免許不要のSub-GHz(サブギガヘルツ)帯である920MHz帯を利用しています。

セルラーLPWAは携帯キャリアの運営するセルラーネットワークを用いた LPWA 規格の1つで、既存の LTE 基地局をベースに全国エリアをカバーしているため、利用可能なエリアが広域で省電力なセルラー通信を実現可能な通信です。IBUKI GPSではセルラーLPWAの1つであるLTE-Mを利用しています。

ノンセルラーLPWAにはSigfox,LoRaWan,ELTRES,ZETAなどがあります。それぞれに特徴があり、省電力のものや通信距離がより長いもの、ユーザーが独自にアクセスポイントを設置できるものなどがあります。

LTE-MとELTRESを比べてみました

セルラーLPWAとノンセルラーLPWAの電波を使う端末にはどれぐらいの差があるのでしょうか?

今回はLTE-Mの回線を使っている「IBUKI GPS」と、ELTRESの回線を使っている「ELTRES Sensing Unit」を実際に装着して京都一周トレイルのコースを走行し、両者の繋がりやすさを比べてみました。

IBUKI GPS

  • 重さ :78g
  • 3分間隔の送信で40〜50時間稼働
  • エリア圏外になると端末に位置情報がキャッシュされ、エリア復帰した際にまとめて送る機能がある
  • 通信規格:LTE-M

ELTRES Sensing Unit

  • H55mm×W40mm×L14.8mm
  • 重さ :約35g
  • 3分間隔の送信(8時間/日)で14日稼働
  • 通信規格:ELTRES

大きさやバッテリーの持ち具合ではELTRES Sensing UnitがIBUKI GPSよりも半分程度の重さにも関わらず、長時間使用が可能なのがわかります。

実験方法

  • 実施日:2021年2月21日
  • 実施方法:トレイルランザックの右肩と左肩に、IBUKI GPSポーチを装着。片方にIBUKI GPS、もう片方にELTRES Sensing Unitを入れて走行
  • 端末の設定:共に3分間隔送信。満充電状態からスタート コースの特徴:京都一周トレイル(伏見稲荷〜嵐山・および市街地)。序盤は京都市、大津市の市街地までの見通しがある。中盤以降は、市街地との間に山が現れ、山の裏側の谷に降りる区間などが現れる。

結果

IBUKI GPS

ELTRES Sensing Unit

ELTRES Sensing Unitでは、序盤の東山トレイルはIBUKI GPS同様に順調にログが取れていましたが、山深くなっていく、北側に進むにつれて、ログが取れなくなっているのがわかります。市街地でのつながりやすさに大きな差はありませんでした。(ELTRESの画像で市街地のログが飛んでいる箇所は地下の電車に乗っている区間です)

ELTRESは100km以上の長距離通信は魅力的ですが、基地局のアンテナとの間に山があり、反対側に入って端末が隠れたときに、通信がうまくいかなかった可能性が考えられます。市街地や見通しの良い尾根上ではログがうまくとれていますので、そういった場所での通信には適していますが、山間部では、うまく通信ができないエリアがあることが分かりました。

IBUKI GPSの場合、エリア圏外になると端末に位置情報がキャッシュされ、エリア復帰した際にまとめて送る機能がありますので、「ログがある=通信できていた」とは一概に言えませんが、携帯回線の場合、谷の中に集落などがあれば基地局が立っており、アンテナの数が多いため、山間部でも通信が成功する場合が多い可能性が考えられそうです。

今回の結果ではバッテリーの持ち具合や大きさは、ELTRES Sensing Unitが小型にも関わらず、長時間使用が可能で魅力的でした。一方、通信のつながりやすさにおいては、特に山間部では、現在のところLTE-M通信の方がつながるエリアが広いという結果になりました。

まとめ

ELTRESは携帯圏外でも通じる可能性があり、電池が長時間持つ点が魅力的です。しかし、谷間や山深い場所では、LTE-Mの方がつながるエリアが広い場合があることが分かりました。

ELTRES以外のノンセルラーLPWAについては、個別に検証が必要ですが、携帯電波に比べて基地局の数が少ないため、同様の現象が発生する可能性があると考えられます。

ノンセルラーLPWAには、独自に基地局が設置できる規格もあり、利用するエリアが限定されており、かつ携帯電波が届かない場合などには、独自の基地局を設置するのが有効な通信手段となる場合があると考えられます。

一方、利用エリアが特定されず、広く山間部で通信を行うには、現状ではLTE-Mが有利であるのではないか、と考えられます。 IBUKIでは今後も、山で使える最適な通信規格を模索していきます。

編集 通知設定... 通報...

コメント